V.A. / Classic Productions by Surin Phaksiri: Luk Thung Gems from the 1960s-80s [EM1185LP]
EM + Soi48のタイ音楽シリーズにタイ音楽界の生ける伝説、スリン・パークシリの仕事集が登場。コクソン・ドッド、服部良一、フィル・スペクター、テオ・マセロetcとも比肩すべき音楽人であるスリンは「キング・オブ・インターナショナル・ソング」という異名を持っていますが、それは今回紹介するタイを代表する歌謡曲<ルークトゥン>(*1)で彼がプロデュースした作品群から付けられたもの。ルークトゥンは歌う題材=歌詞が重要なジャンルで、それが担保されていれば音楽はなんでも良しというどん欲な雑食性があり、その前衛で<攻めた>のがスリン・パークシリだ。
彼はタイ東北部イサーン出身、タイのポップス制作者の旗印となる(ときに変態性も帯びた)最先端チューンを度々送り出した発明家的なプロデューサー。売ることより変わったことを試したい生粋のレコード・マンであり、確かな批評眼でタイ音楽の隆盛を見てきた生ける音楽ライブラリーでもある。
今回はスリン先生が手掛けた沢山のルークトゥン曲からまことの<スリンらしさ>を主張する12曲を選抜。プレーン・プロムデーンやワイポット・ペットスパンらラオス系大物歌手を起用したラオス系賛歌・王道ルークトゥンから、Juu『New Luk Thung』でもサンプリングされたカワオ・シアントーンのガンジャ・チューンとカヴァー曲のオリジ版、ボリウッド援用曲、「ソーラン節」続編や坂本九の曲(??)など日本の民謡・歌謡のカヴァー、怪しげでエキゾなインディアン・ルークトゥン、盟友サマイ・オーンウォンと組んだタイ・ファンクのプロトタイプ、DOPEなレー(*2)やラムウォン(*3)……というルークトゥン娯楽総合カタログとなった。
「ニュー」な「ルークトゥン」を高らかに謳うJuu & G. Jee『New Luk Thung』(2019年)をルークトゥン<最新型>とするなら、このスリン・パークシリの仕事集はルークトゥン<クラシック>の音源集。これをチェックすればルークトゥンが何なのか姿を現し、『New Luk Thung』が別の輝きを放つことでしょう。
今回も全て訳詞付き。解説はもちろんSoi48。
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*注釈
1)ルークトゥン:“田舎の子”、“田舎者の歌”の意を持つ音楽ジャンル。1960年代半ばに確立し、現在はタイのナショナル・ミュージックとして継承される歌謡音楽。歌詞を特に重視する。特定の音楽形式がないため雑食性が高い。
2)レー:仏教教典が僧侶の説法を経て歌謡化したタイ独自のジャンル。制限された音節で即興的に歌っていく話芸で高い技量を必要とするためレーができる歌手はリスペクトされる。
3)ラムウォン:国威掲揚のためタイ政府が1940年代に制定した創作民謡の性格の強い音楽。日本の盆踊りのような輪踊りが特徴で労働者階級で流行した。タイ民謡のメロディーを西洋音楽風に改編したものと、踊れる音楽ならジャンルを問わず何でもラムウォンと呼んで踊ったもの、2つの意味・用法がある。
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選曲・解説:Soi48
マスタリング:倉谷拓人(Ruv Bytes)
装丁デザイン:高木紳介(Soi48)
LP版:ライナー封入
日本語・英語ライナー/完全訳詩掲載
TRACKS:
A1. ブッパー・サーイチョン「恋を風に乗せて届ける」
A2. スミット・サッチャテープ「愛への飢え」
A3. カワオ・シアントーン「新居のシミュレーション」
A4. バンチョップ・チャローンポーン「これ以上しゃべらないで」
A5. リアム・ダーラーノーイ「ドキドキする」
A6. カワオ・シアントーン「大麻竹」
B1. ブッパー・サーイチョン「歩いて見せる」
B2. ダンチャーイ・ソンタヤー「死にたい」
B3. ダム・ダーンスパン「熟した恋」
B4. プルーン・プロムデーン「メコン川の子に口説く」
B5. スマリー・セーンソット「桜があなたを待っている」
B6. ワイポット・ペットスパン「田んぼ沿いのラム」