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『古典邦楽十吋盤のすすめ』(著・岡島豊樹)[カンパニー社, 2024年]
音楽マニアの間で内緒で盛り上がっている古典邦楽(純邦楽)。しかしそれは日本に生まれ住む者にとってすら霞んだ昔の出来事になりつつある音楽でもあり、全容を知ろうにもその道は暗く険しい。TVで国宝扱いの歌舞伎や能は確認できても、19世紀の歌舞伎役者は映画俳優が束になってかかっても足元に及ばない絶大な人気を持っていたこと(山本夏彦談)、広沢虎造がポップアイコンで、長唄、浪花節、常磐津、都々逸がフツーに市井の娯楽だったことは令和の今もう想像することすら困難です。本書はそんな消失しつつあるか、完全に消失した古典邦楽が最後にギリギリ音盤化できた時代——それはSP盤から派生した25cmサイズのVINYL盤の全盛期に合致——を切り取ってファイリングした労作であり、今後底本になるであろう大著です。字面では見知っていても実体が不明な我が国の音楽を再び知る機会にもなりますが、まず体験するのは、いま流布しているカッコ良さとほとんど違う価値世界のカッコ良さが間違いなく存在していたことの発見です。
装丁の紙質は邦楽レコードに親しむ方がニヤッとするであろう「例の」感じです。
(以下、公式案内より転載)
版型: 四六判・並製(幅13 ×高さ18.8 × 厚さ2.7cm)
ページ数: 576ページ(うち、カラー128ページ)
ISBN:9784910065137
発売年月: 2023年11月21日
公式案内文:
LPレコードの生産が開始されてからしばらくの間、1950〜60年代の日本では10インチ(25センチ)サイズのレコードが主役を務めていました。SPレコード時代の遺産を受け継ぎながら、のちの12インチ・アルバム全盛の時代を準備する約10年間——日本の音楽史において極めて重要なこの時期に制作された古典邦楽の10インチ盤の中から約700枚を選りすぐり、レコードに刻まれたさまざまな物語とともに紹介します。長唄、歌舞伎舞台、義太夫節、古曲、常磐津節、清元節、新内節、端唄、うた沢、小唄、俗曲、都々逸、お座敷遊び、雅楽、能、狂言、箏曲、地歌、尺八、琵琶、詩吟、浪曲、お祭、囃子、太鼓、民謡、さらにわらべうた、童謡、文部省唱歌といった子供向けの音楽に至るまで、珠玉のレコードが皆様を「古典」の世界へお連れします。
著者プロフィール:
岡島豊樹(おかじま・とよき)
昭和31年、石川県羽咋市柴垣町出身。主な職歴:ジャズ喫茶勤務、『季刊ジャズ批評』誌編集人、他。共著に『女性ヴォーカル THE EXCITING JAZZ BOOKS』(アドリブ)、『柴垣事典−ネタ帳−』(石川県羽咋市柴垣町町会)。単著に『ソ連メロディヤ・ジャズ盤の宇宙』『東欧ジャズ・レコード旅のしおり』『地中海ジャズの歴史と音盤浴案内』(3冊ともカンパニー社)。