※試聴クリップはページ下部にあります。
SUGAI KEN『必ず喫茶時にお聴き下さい。』[宇治香園, Tealightsound, 2021]
SUGAI KENの完全なる2021年NEWアルバムがTealightsoundシリーズから登場。
Tealightsoundは〔Tea + Light + Sound〕をワンワードにしたもので、創業から3桁の年月を数える日本茶の老舗、宇治香園の現当主が運営する真面目な音楽レーベル。このレーベルが発しているものを独自に解読すると、茶の芸術世界を届けたい!という昭和万国博的なメッセージではなくて(多少その野望はあるはずだがそれは優先ではないと思われる)、具体と抽象の混淆という、言葉での表現がほとんど不可能な感性的風景の覚知を、上段に構えず、日常生活上に、<茶を介して>うみだすことを願い、誇張して言うと<生き方>のようなもの、そのテクニカルな伴侶としてのCDの提案というものではないか。
シリーズの既出の全作品はフィールド音なり演奏過程なり,録音の場所なりで、実在する茶畑(ハード面)を作中に取り込んでおり、それが唯一のルール(?)になっている。ゆえに、例えば、茶>茶の湯>侘び寂びのように安易に連想される精神性(ソフト面)では制作されず、何をやっても良いが,制作ではハード面での制限が課される。音楽制作の現場ではつい何でも入れてしまいがちな今(「様々な要素を取り入れて」等々の凡庸な言説が代表する態度)、茶のことばかり考えている人の偏った視点が、実はとても重要で、茶の香りしそうな本シリーズをアーカイブにするファンも多い。
電子音楽家、SUGAI KENの『必ず喫茶時にお聴き下さい。』は、SUGAI KENファンから見れば、SUGAI KENこそ本シリーズのためにいるような作家で、Tealightsoundでとっくに出していたと錯覚させ、思わずこれで2作目?と確認しそうになるが、今回が初リリースとなる。コロナ引きこもり環境でいよいよ視野が狭くなっているように思える好ましい状態のSUGAI KENの考えた「茶」の電子音楽表現とは、喩えが分かりにくいかもしれないが、60-70年代の電子音楽作家にあったようなガリゴリした音塊とスカスカの空間構成にあって、電子音楽=コンピュータ音楽という誤解の上に生産された<なめらかさ>が尊ばれる現況(トレンド?)では、SUGAI KENの音の采配が耳に刺さる。曲名にある「何々を電子音で再現」というアカデミックに突き放したようで実は似非アカデミズム言説の批評性も好感度。今後も続くならばシリーズで宙に浮く異端の作品になることは間違いない。
※ラストM10「ふみのろここ」は侘び茶(わび茶)の始祖、村田珠光の文章「心の文(こころのふみ)」を逆さにした題名と思われ、おそらく作品中のテキストも「心の文」の朗読を逆回転再生して電子変調したものと思われる。
*紙製ジャケット
*巻き三つ折りインサート封入
TRACKS:
01. 夜明けの山林に響く謎声を電子音で再現 (A Mysterious Voice Echoing in the Mountain Forest at Dawn, Reproduced with Electronic Sounds) 00:58
02. 五目膳 壱 (Gomokuzen 1) 01:55
03. 廃茶園の土壌の音を再現 (Reproducing the Sound of Soil of an Abandoned Tea Plantation) 05:40
04. Dawn 15:02
05. ちゃ_と_気配 (Are you high purity?) Cha to Kehai (Are you high purity?) 05:11
06. 星の瞬きを手拍子で再現 (Reproducing the Twinkling of Stars with Hand Claps) 05:06
07. 五目膳 弐 (Gomokuzen 2) 03:04
08. 仮死茶と活き造り(仮生) (Tea in Suspended Animation and Ikizukuri (Feigned Life)) 02:54
09. 沈さ (Sediment) 01:00
10. みふのろここ (Mifunorokoko) 03:03