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[Germany: Wergo, 1987] LP
ジャチント・シェルシ(1905-1988)は、かのラモンテ・ヤングやヨシ・ワダやシュトックハウゼンよりも前、たったひとつの音程を追求した極めつきに特異な作曲家。倍音、微分音振動、音色、ダイナミクスなどあらゆる方法で変化させたひとつの音程には驚くほどの幅と凄みが内蔵され、ドローンのような瞑想的アプローチとは異なる狂気手前の世界をも持つ(彼は精神的な不調があった)。生涯の大半、知られることがなく最晩年の80年代に「発見」され周知となったそうで、そのため生前リリースは少なく全作激レア。本作は、東洋へ傾倒していたシェルシが50年代後半に出会った日本人声楽家、平山美智子のために作曲した後期作『山羊座の歌』の1969年と1981/82年のプライベート録音を収録したLPで、「発見」後に大手WERGOからリリースされたため比較的入手しやすいがそれでも貴重。評伝によると、ある困難な状況の経験をしたシェルシは「より高次で超越的な現実を聴き手に伝える」手段として芸術創造を考えるようになり、作曲家や演奏家はその仲介者とみなした。この考えのもと、平山がありとあらゆる発声テクニックを用いて一音程を即興表現したものを選別し、作曲者の作家性をほとんど放棄。このほぼ無媒介ともいえる表現方法はケージの偶然性とは異なり、楽譜原理主義ではなく身体を通して「高次で超越的な」ものの通訳を試みた様相があり、シャーマンか異言(ゼノグロッシー)のような超常状態を呼び込む!ラストに収録された平山のバス・リコーダーによるシンプルなソロ演奏の簡素な凄みにはことによると音に霊魂が宿っていることを信じたくなる。吉原すみれ、アルヴィン・カラン、中川昌三が伴奏で一部参加。
ディスクVG+〜NM
ジャケットVG-:下左角に大きな折れ曲がり跡、そのほか小さく角折れ、表面少しシワ汚れ、背と底のエッジに擦れあり、見開きスリーブ。