Tashi Wada『What is Not Strange?』[US: RVNG L114, 2024] 2LP
2024年真打ちの一作が遂に入荷!
本作はタシ・ワダの単独作としては通算4作目にあたり、アルバムとしては『Duets』以来10年ぶりに発表されたもの。録音は2022年から23年。(ご当地の宣伝では清水靖晃だ細野だの文字を散見するが、そんなものはどうでもよい)
タシ・ワダはアメリカン・ミニマルミュージック(特にNYスクール)の数少ない正統的な後継者と位置づけできる作曲家で、ご存知のように父はかのヨシ・ワダ、母はNYスクール関連では著名なアーティスト/ギャラリストのマリリン・ボガードであり、また、カリフォルニア芸術大学でジェームズ・テニー(06年没)に作曲を学んだというアートミュージックのサラブレッドのような人物。活動の初期からミニマルミュージックの轍をふむ作曲を行い、少ない音を対象に一人二人の演奏家でリアライズするクラシカルなミニマル作品を発表していたが、本作ではパートナーでもあるジュリア・ホルター(<大貢献!)を含む4人の演奏者を迎えて驚きの跳躍を果たした。
『What is Not Strange?』の核心部のひとつは、フランスの作曲家・音楽理論家のジャン・フィリップ・ラモーが提唱した18世紀初頭の音律に基づき調律された中全音律(
Wiki説明こちら)を作曲に採用したことだ。この一般に聞き慣れない忘れ去られたチューニングを使うことで、ごくわずかだが有意味な差異、言葉ではなかなか説明が難しい作品の雰囲気(調性から生まれる全体の雰囲気)を生み出している。楽器法や編曲ではなく、楽器演奏で土台になるチューニングそのものに着目して音楽を作る(作曲する)方法を示そうしている。18世紀までは大陸の各地でローカルなチューニングがたくさん存在し、各々のパーソナルな好みが音の響きに反映されていたというが、バッハの平均律以降それらは淘汰され統一規格が当たり前となった今、それを個人的に見直すというのが本作のコロンブスの卵的な提案だ。
『What is Not Strange?』の表象で目立つのはジュリア・ホルターのヴォイスやエズラ・ブックラーのエレクトリック・ヴィオラ、そして全編どこか異質(strange)な楽器の響きで、明らかにこれまでのワダの作曲とは異質。中全音律を採用したことでチューニングに引っ張られ、ある曲はその音律それ自体に直感的に作曲を委ねるというある種の偶然性、創造的な意味でのコントロールの放棄によって作られたという本作は音楽の新たな地平を開拓した。最近かなり安売りされている感のある「実験的」という音楽の冠を、本当の意味で載せてよい素晴らしいアルバム。MUST!!(上記ネタはタシ・ワダに尋ねて確認済み)
題名『What is Not Strange?』はシュールレアリズム的な文体の実験でビート文学にも影響を与えた詩人、フィリップ・ラマンティアの作品から付けられたもの。
作品仕様:
・DLクーポン付き
・見開きスリーブ、シュリンク封入、表面にステッカー
TRACKS:
Disc 1
A1. What is Not Strange
A2. Grand Trine
A3. Revealed Night
B1. Asleep to the World
B2. Flame of Perfect Form
Disc 2
C1. Subaru
C2. Time of Birds
D1. Calling
D2. Plume
D3. This World's Beauty