スティーブン・ウィッティントン『ファイナル・フラグメンツ:ピアノ・ミュージック・オブ・デイヴィッド・コトロウィ』[Australia: Delacatessen DLC003, 2023年] LP
オーストラリアのアデレードで制作された、サティやアメリカのミニマリストへの敬意を表した静謐な実験ピアノ作品集の知られざる密やかな名品。デイヴィッド・コトロウィという地元では著名な作曲家が1990年代に作曲していたピアノ曲の数々を、地元の演奏家・研究者スティーブン・ウィッティントンの手で2020年に録音し音盤化したもので、最初は100枚、2023年に50枚(!)プレスしたのみという極少部制作品。2023年版のストックをレーベルのご厚意で非常に手頃な価格で入手しました(普通に売れば7,8千円はするでしょう)。全て手書きの通しナンバー入り。MUST!!!
解説によると、コトロウィが「(日本の)尺八音楽から直接影響を受け」て編み出した音楽上のアプローチとは、演奏の際、楽譜の小節線に来る度にリラックスして息を吸い、息を吐き出すとき、その息の長さにそって次の小節内の音符を演奏するというもの。繰り返される呼吸のフレージングは柔軟に伸縮する時間枠のように機能し、演奏者の呼吸と音楽の長さが結びつくことで、その音楽は弾力性と予測不可能性を獲得し、必然的に各演奏者固有のものを表現する。いわば人間の生理状態やバイオリズムを使った不確定性の音楽となっている。
ジャケット図版に掲載された楽譜を見ると、バラバラの小節の「断片」が配置され、強弱記号はなく、記譜された音符はサティ「ジムノペディ」よりも更に少なく、2音以上が同時に鳴ることはない。しかも休符だらけでスカスカの侘び寂び感。これらを先の呼吸メソッドで弾くことで、予測のつかないタイミングでの音と独特のアンビエント残響感が出現し、少ないほど豊か=ミニマリズムを新鮮さをもって表現する。
TRACKS:
1. piano 25-7-94 11:17
2. Well-Fed Preludes - Half Asleep 02:37
3. Well-Fed Preludes - Winter Warmth 02:00
4. Well-Fed Preludes - Da Lontano 04:12
5. piano 26-7-93 04:22
6. piano 25-7-93 04:29
7. piano 27-7-93 04:28
8. final fragments - one 01:57
9. final fragments - two 01:40
10. final fragments - three 01:38
11. final fragments - four 01:08
12. final fragments - five 01:55